目次
はじめに
逮捕されるということは誰にでも起こりえることです
ご自身が被疑者や犯人として逮捕されるということは少し考え難いことかもしれませんが、全く起こりえないことではありません。 私の経験上、前日のアルコールが抜け切っていない状態で車を運転(=飲酒運転)してしまったり、相手に挑発され、つい手が出てしまったりということケースなど、微罪逮捕は軽微で悪質性の低い行為に対してもなされる可能性があることから、多くの人に起こり得る逮捕です。 そこで、オーストラリアで万が一逮捕された場合、その後の手続きがどうなるのか、そして、どのようなことに注意すべきなのかについて解説します。
弁護士に相談することの重要性
オーストラリアの刑事事件における司法制度は日本のものとは大きく異なりますし、普通の方は刑事事件の手続きや刑事訴訟法について理解していないものですから、万が一逮捕されてしまうと慣れない事態に狼狽して正しい選択を行うことが難しいことが多々あります。 そして逮捕する警察側においても、法的知識の不足等により、逮捕の過程で行き過ぎた取調べなどを行ってしまう警察官もいるようです。 しかし、このような違法な取調べであっても、警察の取調べで一度自身に不利な供述などをしてしまった場合には、今後その供述を覆すことは並大抵のことではなく、裁判においてはその供述が重視されて不利な判決が出されてしまう可能性もあります。 しかし、実際は逮捕されたからといって必ず有罪となるわけではありませんので、法的知識の不足によって多大なデメリットを受けることを防止するためにも、逮捕されて身柄を拘束された場合には、すぐに弁護士に相談されるのが賢明です。 これは日本とオーストラリアに限定された話ではなく、逮捕された際に最初にすべきことが「弁護士を呼ぶこと」なのは万国共通です。
黙秘権と捜査協力義務
オーストラリアで逮捕された場合、あなたには警察の捜査に協力する義務が発生します。 もし、警察があなたに “You’re under arrest”(逮捕します)と伝えた場合、速やかに警察の指示に従って取調べを受けにいかなければなりません。 ここで重要なのは落ち着いて警察の指示に従う事です。 感情的になったり、警察官に口答えをしたり、罵声を浴びせたり、ましてや逃走などしてはいけません。 私の経験上、ここでは素直かつ丁寧に接する以上の解決方法はありません。
警察の取り調べにおいて気を付けて頂きたいのは、オーストラリアではアメリカで用いられているようなMiranda rights([1])に相当するような権利が法律で明確に定められていないという事です。 言い方を変えれば、オーストラリアの警察官が取調べを行う際に義務付けられていることは ”被疑者が最低限の権利を理解していることの確認” だけであり、あなたが自分で弁護士と相談したいと主張しない限り、弁護士からアドバイスを受ける機会を与えてくれないのが一般的である点に留意しなければなりません。
先ほど述べた通り、警察での取調べにおける供述が後々重大な意味を有する可能性があることから、万が一逮捕された場合には、弁護士と会うまで、余計なことは話さないことが重要になります。 ただし、警察官には捜査の一環として被疑者の名前と正確な住所の確認をする権限がありますので、あなたの名前や住所、何か服用薬が必要になるか等の質問については回答するべきです。 また、一般的には身の潔白を証明せずに黙秘を貫くという事は何か後ろめたいことがあるからだと思われがちですが、その様に法律上は解釈されませんので、堂々と黙秘権を行使して大丈夫です。 殆どの警察官は質問には回答して当然という態度で接してきますので、もし回答に困ったら、弁護士に相談してから回答したいと伝えるといいでしょう。
次の記事では、”刑事事件その2:オーストラリアで刑事事件に巻き込まれたら゛について解説します。
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[1] 警察官が被疑者を逮捕するときに言い渡すことが義務づけられている ”ミランダ権利” でよく使われる4項目の言い回しは以下の通りです。
- あなたには黙秘する権利がある。
- あなたの言ったことは、何であれ、法廷で不利に扱われるおそれがある。
- あなたには弁護士と話し合い、また、尋問中、弁護士を同席させる権利がある。
- もしあなたが弁護士を雇うことができなくても、希望するならば、尋問の前に国選弁護士を任命し、あなたの代理にすることができる。