目次
不動産価格の調査
不動産を売却される場合、殆どの方が不動産業者を訪れてみて、先ずは話を聞いてみるというのが一般的な流れになるのではないでしょうか。 最近ではインターネットで近隣不動産の価格帯を確認する事ができますので事前に色々と調べてから不動産業者を訪れる方も多いと思いますが、実は下準備こそが不動産を少しでも高く売るために最も重要なことなのです。 何事も往々にして、こちらが浅い知識しか持ち合わせていない事が相手に伝わると、途端に回答のレベルが下がり、表面的な返事しかもらえなくなる事があります。 最悪のケースでは、親身に相談に乗ってくれているように見えても、相手に都合の良い話で進められてしまう場合もあるでしょう。 逆に、十分な予備知識を持って面談に望んだり、また、自分の場合でしたら身元や職業を明かすと「まず誤魔化せない」と感じるのか、はたまた「良くしたら、今後も顧客を紹介してくれるかも」と考えるのか、桁違いに回答のレベルがあがり、親身に相談に乗っていただいたり、具体的な説明を頂戴できるようになるものですから事前調査や情報量は非常に重要といえます。
不動産業者の下調べと選定
不動産には地域性というものがあり、一般的に不動産を探している方達は購入を希望する地域に所在する不動産業者を訪れるものです。 例えば、南麻布で不動産物件を探されている方達は、新宿ではなく、麻布近辺にある不動産業者を訪れるといった具合です。 また、売りに出す不動産の近辺における物件を多く取り扱っている業者さんを選ぶ利点として “地の利” だけではなく、過去の販売経験から、その地域特有の情報を多く保有しており、より具体的かつ積極的なセールスが期待できる所にあります。 例えば、小さなお子さんがいる家族が不動産を見に来た場合でしたら、近隣にある学校や児童施設、最寄りのバス停やスクールバスの有無など、買主の視点に立ったローカルならではのセールストークが期待できます。 過去に近隣の不動産物件を何十件ぐらい売却してきたことがあるのか、そして、現在は何件売りに出ている物件を担当しているのか確認してみるといいでしょう。
一番重要な事ですが、最終的な売却金額は不動産業者のセールス能力や販売時の采配によって大きく左右されるものですから、セールスマンの人柄や力量は非常に大切になってきます。 また、ローカルの不動産業者でしたら常時30件以上の物件を店舗で取り扱っているわけですから、必然的に取扱い物件の中でも販売の際に優先順位が発生するものです。 ですから、新人のセールスタッフと話を進めるよりも、その不動産業者の代表者の方を含めて打ち合わせを行われるのが賢い選択といえます。
希望購入者との折衝
オーストラリアでは買主から無条件で不動産を購入するオファーが来る事は稀です。 通常は購入価格の減額であったり、購入にあたって必要な融資条件が満たされることであったり、買主が保有している不動産の売却などが前提になった打診が行われます。 これを英語ではCounter Offer(カウンター・オファー)といいますが、これは売主が提示した売却条件で買主が買うということではなく、あくまでも買主からこの条件で売ってくださいという打診になります。 なお、オーストラリアでは “中値” という考え方が購入時の打診方法として浸透しています。 例えば、150万ドルで売りに出されている物件を140万ドルで購入したい場合、その買主さんは130万ドルで購入を希望する打診を行い、そこから売主、買主ともに譲歩して中間の140万ドルに売却価格を持っていくという考え方です。 ですから、仮に150万ドルで売りに出しているにも関わらず、130万ドルの打診がきたとしても気を悪くされない方がいいでしょう。 ただ、不動産業者からしてみれば、強引に150万ドルで進めて話が流れてしまうのであれば、130万ドルでも契約が纏まれば手数料が入るわけです(契約を纏めたい訳です)から、売主さんと不動産業者の利害関係は相反している点には留意が必要です。
売出し価格を幾らに設定するかは非常に重要なことですので、マーケットを良く調査して近隣の不動産と比較して良く打ち合わせてから設定されるのが賢い選択です。
参考までに、私の経験から一番上手くいったセールスでは、最初のオープンハウスで物件が一般公開されるまでに担当者の方が ”近隣エリアの不動産を直近見に来られた方達” や ”新しく物件が売りに出された際に連絡がくるメールリストに登録されている方達” 全員(40組超)に精力的にセールスの連絡を行なわれ、結果として、週末の二日間で16組の方が観に来られました。 このケースでは何組もの方達が同時期に見に来られる事で「早く決めないと他の人に取られてしまう」と潜在購入者が互いに牽制しあったためか6組の方から購入打診があり(その内2件の方は売主が提示していた価格より高い金額を提示されてきました)、実にマーケットに出して3日目で不動産売却の契約が成立しました。 このようにセールス担当者の力量によって売却金額は大きくかわるという良い例だと思います。
売却手続き
価格と条件が折り合う買主が見つかりましたら、売買契約書を締結します。 オーストラリアでは不動産売買取引に際してStandard Contract(標準契約書:名前、住所、価格、条件など一部の情報のみ加筆)という契約書が存在していますので通常は不動産業者が契約書を作成します。 売主側から売却を取り消せる条件は付けないのが普通ですので、もし不動産業者とのやりとりに不安が残る場合、契約書に署名してから弁護士に郵送するのではなく、弁護士に内容を確認してもらってから署名プロセスに進まれるのが安心です。
全ての条件がクリアとなり、契約が無条件となりましたら、ここで売主と買主の弁護士事務所が連絡を取り合って決済に向けて話を進めていきます。 日本ですと司法書士(または、補助者と呼ばれる司法書士事務所の事務員)が不動産売買の登記業務全般を行いますが、オーストラリアではConveyancer と呼ばれる弁護士事務所の事務員が応対するのが一般的です。
最後に
不動産売買は人生で最も大きな取引の一つです。 このブログにて、オーストラリアで不動産を売却する際に気を付けたい点を簡単に纏めてみましたが、ケース毎に応じた対応であったり、細かい点など、知識やノウハウの有無は重要です。 オーストラリアで生まれ育った方でも “不動産を初めて売却される方” と “不動産を過去に何件も売却した事がある方” では保有している知識、経験やノウハウ等から最終的な売却金額が大きく変わってくるものです。 当オフィスでは不動産売買手続きだけでなく、不動産売買の代行業務も承っておりますので、ご自身での売却に不安が残る方は遠慮なくお申し付けください。 弊所に拠る売却代行については、”オーストラリアの不動産売却その2 – 実践編” をご参照ください。
以上3回に亘って、私が2004年~2017年の間に ”オーストラリアの不動産売却” について執筆していたコラム(日豪プレス、リビング・イン・ケアンズ)とブログ上の法律コラムを再編集させていただきました。 他に不動産についてのコラムも再編集いたしましたので、少しでも皆様の利益とお役に立てればと思います。
2017年5月31日
オーストラリア国弁護士・神林佳吾
なお、オーストラリアの不動産売却についてのコラムは全5回の掲載となります。 全リストは以下をご参照ください。
不動産売却その1: オーストラリアの不動産売却その1 – 全体の流れ
不動産売却その2: オーストラリアの不動産売却その2 – 実践編
不動産売却その3: オーストラリアの不動産売却その3 – 実務編
不動産売却その4: オーストラリアの不動産売却における注意点
不動産所有権について: オーストラリアの不動産所有権・共有名義について