目次
はじめに
不動産売却のプロセスは大きく2つの段階に分ける事が出来ます。
1. セールス
2. 売却手続き
日本と同様で不動産を売却する際には不動産業者を任命して購入主を探してもらうのが一般的です。 手続き自体は単純な為に見落とされがちですが、不動産といった性質から非常に大きな金額の取引となりますので、気をつけておきたい点が幾つかあります。
不動産業者の選定
不動産業者はあなたの不動産を売却するエージェントとして、売却にあたって必要な手続き全般を応対します。 不動産業者の能力や販売時の采配によって売却金額が大きく左右されるわけですから、一番大切なのは不動産業者選びといっても過言ではありません。 理由は後述いたしますが、オーストラリアでは依頼する不動産業者によって売却金額が10~20%程度変わってしまうということは決して珍しい事ではありません。
大手不動産業者と地域に密着した不動産業者のいずれにもメリットとデメリットがあり、どちらの不動産業者が良いかは個別に判断するしかありません。 購入主は不動産を実際に見た上で購入を決める訳ですから、不動産業者のブランドネームよりも、セールスマンが有する知識、経験、ネットワーク、ノウハウ等が重要になってきます。 ですから、不動産業者を任命するにあたり、なるべく多くの不動産業者を訪れ、実際にセールスを担当される方に会って直に相談されてみるのが賢い選択といえます。 中には、その価格や期間では売れないと解りながらも、何とか売却の仲介契約に繋げようと、高めの市場価格を提示したり、すぐに売れると豪語する業者もいますので注意が必要です。 不動産売却(実務)に関しての注意点は ”オーストラリアの不動産売却その3 – 実務編” をご照ください。
不動産業者の任命方法
不動産業者を任命するにあたって、“Open Listing”(一般媒介契約)か“Exclusive Listing”(専任媒介契約)にするかを選ぶ事ができます。 どちらの契約にも一長一短あるのですが、殆どの不動産業者は専任媒介契約を勧めてきます。 不動産業者は専任媒介契約を取る事で売主が他の不動産業者に依頼出来ないよう囲い込む事ができますし、万が一、他の不動産業者が買主を見つけてきても共同販売という形で手数料を受け取る事ができるからです。
専任販売の最大のメリットは専任を結んだ不動産業者による積極的な販売が期待できる所です。 例えば、ウォークインで訪れたお客さんは勿論、他の物件を見に来られたお客さんにも積極的にセールスをかけてもらうことが期待できます。 デメリットについては前述でも触れましたが、専任媒介契約を結んだ場合、他の不動産業者は買主を見つけてきても通常の約半分の手数料しか得る事ができません。 当然、他の不動産業者は手数料が全額入る物件を優先的に販売するわけですから、他の不動産業者による積極的な紹介は期待できません。 専任媒介契約が良いかどうかはケース・バイ・ケースになりますので、各自の状況を見極めて判断されるのが賢明です。また、不動産の価格設定、広告やマーケティング等に関しては絶対的な指針がありませんので、不動産業者と良く相談した上で一番理に適っていると思われる方針で進められるのが順当です。
オーストラリアでは不動産仲介手数料を売主が支払う形となり、仲介手数料の金額に関しては不動産業者によって異なりますが交渉する事が可能です。 とはいえ、数千ドルの手数料を値切った為にセールスが疎かになり販売価格が数万ドル下がってしまったなんて事にならないよう上手く交渉する必要があります。 販売方針と手数料が定まり次第、不動産業者と販売に関しての契約を結び、不動産業者が契約内容に沿った広告の手続き、マーケティング、セールス等の対応を開始します。 通常は1~2週間毎にセールスの進展具合について不動産業者から連絡が行われてきますので、気になった点などは積極的に質問するのがいいでしょう。
買主との交渉・売買契約
オーストラリアでは買主から無条件で不動産を購入するオファーが来る事は稀です。 通常は購入価格の減額であったり、購入にあたって必要な融資条件が満たされることであったり、買主が保有している不動産の売却などが前提になった打診などが行われます。 これを英語ではCounter Offer(カウンター・オファー)といいますが、これは売主が提示した売却条件で買主が買うということではなく、あくまでも買主からこの条件で売ってくださいという打診になります。 勿論、買主の提案を受けるかは売主の判断になります。
弁護士事務所の役割
オーストラリアでは不動産売買の手続きを弁護士事務所の事務員が応対します。 必要に応じて契約内容を弁護士が確認し、土地の名義変更手続き等の事務業務をConveyancerと呼ばれる専門の事務員が担当します。
売却手続き
締結されている契約内容に沿った手続きを前述のConveyancerが行います。 クーリングオフ期間や融資事項が消失して契約が無条件となった段階で、決済日にあわせて住民税、減債基金、管理組合費、水道料金などを日割り計算で算出します。 決済時に売主側は不動産権利書(発行されている場合)、不動産譲渡書を持参し、買主側は指定された銀行小切手を持参して同時交換を行います。 オーストラリアの不動産決済は代理人によって行われ、当事者による立会いは行われないのが一般的です。 なお、小切手は銀行小切手で振り出され、ご夫婦名義など共有名義の不動産売却は特定の条件が満たされない限り、両者(ご夫妻)名義での小切手となります。
次の記事では、”オーストラリアの不動産売却その2 - 実践編”を解説します。
2017年5月31日
オーストラリア国弁護士・神林佳吾