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弁護士が教える揉めない遺言書の作成・相続手続

目次

はじめに

私の両親は父方・母方ともに遺産相続で兄弟と揉め、その後は交流が無くなってしまいましたので、自分も従兄弟と疎遠になっています。  この歳になってみると、血縁関係にある親族との交流が限定的になってしまうこともあり、小さい頃はお盆や正月に一族全員が祖父の家に集まって交流できたことを懐かしく思うばかりです。  今はそういう時代ではないのかもしれませんが、自分の子供に同じような経験をさせてあげられないと思うと少し悲しく思います。  

閑話休題
さて、「相続手続きで揉めてしまった。 遺言さえあれば……。」 というのはよく聞く言葉ですが、本当に遺言書があれば、全く問題は起きないものでしょうか。 必ずしもそうとは言い切れません。遺言書があっても、揉めたり、わだかまりが残ったりする場合はあります。

遺言書があっても ”遺産争族” となりうる?

例えば、2人の子供が80万ドルの貯金を平等に相続するなら、分かりやすいので揉めることもないでしょう。 しかし、その一方で、やはり揉めやすいのは、簡単に分割できない不動産や平等でない遺言の場合です。  この場合、”自分だけ取り分が少ない”とか、”別の財産がよかった”等、様々な不満が起こりかねません。  日本では遺留分といって遺言では相続財産をもらえない相続人にも一定の権利が保障されていますが、オーストラリアには遺留分の制度はありません。 そのため、相続人のうちの一人にだけ財産を残しておくという遺言がなされると、他の相続人の不満が出てきます。  そこで、私が弁護士として経験してきた中で、お勧めしたい「揉めないための相続対策」があります。

相続で揉めない方法

いろいろと考えた結果、やはり問題が起こらないことが何よりですから、読者の方にぜひ参考にして欲しいと思い、本コラムで遺言書に関するアドバイスをすることにしました。
それは非常にシンプルなことで「相続対象者全員を一堂に集めた上で、生前に遺言内容を彼らに伝えてしまう」ということです。

ごく稀に日本の年配の方の中には、「長男が全ての財産を貰える」と勘違いされているケースがあります。  ご本人には悪気がない場合がほとんどですから、大抵の場合、直に父親もしくは母親から遺言内容を聞かされていれば、自然と納得するものです。   また、「何故、そのような相続を希望するのか」という理由を併せて伝えてしまうのが良いと思います。  それでも納得いかないようなケースでしたら、死後に遺言書の内容を聞かされて揉めることが想像できるでしょうから早めに対策を取ることができます。 

実際に私が対応したケースとして、病院で寝たきりになった方から遺言書の作成をご依頼いただいたことがあります。  その方は90歳を超える高齢にもかかわらず、意識はしっかりとして、正常に判断ができる方でしたので、私も快く引き受けさせていただきました。  その上で、死期が近いということもあり、日本から子供達が来豪して、私も遺言書の内容の公開に立ち会わせていただきました。 

その際のやり取りですが、まず、ご本人様から、私が遺言書の作成を依頼を受けている弁護士であることを説明して貰い、全員が揃っている場で遺言内容を私から説明し、この遺言内容が適法である旨の説明をさせていただきました。 簡単なことですが、これだけです。  

上記のケースでは、何故、そのような遺言にしたいのか理由がありましたので、全員にお伝えした上で、ご本人様から相続で揉めないよう締めくくっていただきました。  このような形で遺言を遺しておくと、心情的にも納得できるでしょうし、法的に揉めうる要素も払拭することができます。     

 


以上、5回に亘って、オーストラリアの遺言について、私が2004年~2017年の間に執筆していたコラム(日豪プレス、リビング・イン・ケアンズ)とブログ上の法律コラムを完成版として再編集させていただきましたが、少しでも皆様の利益と公益に繋がればと思います。 

2017年11月4日
オーストラリア国弁護士・神林佳吾

なお、遺言について過去のコラムはこちらをご参照ください。

遺言その1: オーストラリアの遺言書について
遺言その2: オーストラリアの遺言書を執行する際に良くあるQ&A
遺言その3: オーストラリアに資産をお持ちの場合:相続・遺言書作成について
遺言その4: Enduring Power of Attorney – 成年後見制度(成年後見人)の任命について

相続その1: オーストラリアの相続手続きについて
相続その2: オーストラリアのProbate(検認手続き)について

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