目次
オーストラリアの離婚手続Q&A
オーストラリアの離婚手続
Q. オーストラリアで離婚する時に必要な手続にはどのようなものがありますか?
A. 離婚を成立させるためには裁判所への申請手続を行い、裁判所に離婚を認めてもらうことが必要となります。この申請には、単独申請と共同申請の2パターンがあり、夫婦双方が離婚に合意している場合は共同申請、夫婦の一方が離婚に納得していないなど、離婚手続を共同でとることができない場合は単独申請を行うことになります。
離婚する際に決めるべきこと
Q. オーストラリアで離婚する際に取り決めるべきことにはどのようなものがありますか?
A. 夫婦間の財産分与や配偶者扶助(Spouse Maintenance)、子の養育や養育費について取り決める必要があります。 簡単にいうと、離婚時の手続には “離婚” “財産分与” “養育” の3つカテゴリーが別々に存在しており、これらのそれぞれについて取り決めが必要となります。
オーストラリアの財産分与Q&A
財産分与の対象
Q. オーストラリアの財産分与において、対象となる資産について教えて下さい。
A. 基本的にはご夫婦それぞれが保有されている資産全てが対象となります。 ご夫婦で話し合われる際にSuperannuationは見落とされがちなのですが、これは結婚前から加入していた部分も財産分与の対象に含まれ、十万ドル単位になってくることも少なくありませんので、Superannuationも財産分与の対象として必ず請求するようにしましょう。 ただし、Superannuationを財産分与で受領しても、今すぐにそのお金を使えるわけではありませんので、その点を踏まえた交渉をされるのがいいでしょう。
Q. 結婚する前に築き上げた財産は財産分与の対象とならないと聞きましたが違うのですか?
A. 日本では婚姻期間中に築いた財産のみが財産分与の対象となり、婚姻前に築いた財産は対象とならないのですが、オーストラリアでは婚姻前に築き上げた財産も財産分与の対象となります。ですから、結婚前に築き上げた財産に夫婦間で大きな差があるような場合、離婚時に不合理な財産分与になることがないよう婚姻前にPrenuptial Agreement(プリナップ)と呼ばれる婚前契約書を締結することができます。 むしろ、オーストラリアでは資産をお持ちの方、ご両親が資産家の方、再婚される方はPrenuptial Agreementを作成して有事に備えておくというのが一般的です。 そうすることで、もし離婚になった際に財産分与で揉めることもありませんし、時間や労力だけでなく、精神的な負担を払拭することができます。
なお、Trustに資産を移すことで財産分与を回避できると認識をされている方もいらっしゃいますが、基本的にTrustに資産を移しても財産分与を回避することはできませんし、日本国籍を有している方が関係するTrustは日本の相続税や贈与税の課税対象になりえますので注意が必要です。
財産分与の割合
Q. オーストラリアの財産分与でもらえる割合はどうなりますか?
A. 財産分与の割合に関しては婚姻期間、資産・収入規模などのご夫婦の状況と、収入、家事、出産・育児、親族による資金援助などの貢献度合いによって異なりますので、一概に何対何の割合で分割するということはいえず、ケース・バイ・ケースで判断する必要があります。
財産分与の取り決め方
Q. 夫婦間で財産分与の内容がまとまりましたが、問題が起きないようにしたいです。オーストラリアで財産分与をするにあたり、必要な手続について教えて下さい。
A. 原則として、オーストラリアの財産分与については、弁護士を介して書面でまとめなければ無効になりえます。 これは売り言葉に買い言葉で突発的な発言の言葉尻を捉えたり、その場の勢いで決めてしまったことについては認められず、取り決めはフェアに行わなければならない、というのが法律上の見解であり、裁判所のスタンスになるからです。
通常、オーストラリアの家族法では以下の2通りの方法のうちのどちらかで財産分与を行うこととなります。
- Financial agreement
- Consent order
このFinancial agreement とは日本でいう離婚協議書に相当し、Consent orderは裁判所の判決を指します。
Financial agreementに法的効力を持たせるためには、オーストラリアの法律Family Law Act 1975(オーストラリアの家族法)の規定に基づいて、夫婦の双方とも個別に弁護士からアドバイスを受け、自分の権利・義務を理解したうえで署名することが義務付けられています。 そして、そのFinancial agreementの内容を説明してアドバイスを行った旨を確認するCertificateを其々の弁護士が作成して貼付する必要があります。
これはConsent orderを求める場合でも同様の考え方が適用され、双方ともに弁護士からアドバイスを受けた上で到達した合意内容を最終的に法廷で承認してもらわなければなりません。すなわち、裁判所の審理を経た上で、双方が到達した合意点が公平とされる場合にのみ、裁判所が承認するということになります。
財産分与で揉めた場合
Q. 相手方と財産分与について揉めていて合意できないのですが、どうしたらいいですか?
A. 双方が合意に達することができない場合には訴訟を始めることになります。そして、訴訟が始まると、夫婦の双方は自分のすべての経済的状況を申告しなければなりません。そして、裁判所が財産分与を決定するにあたって、通常は以下の点を考慮します。
- 夫婦が所有する全ての財産(婚姻前から別居に至るまでの全ての財産)
- 各当事者の寄与度合い(経済的寄与、家事・育児などの非経済的寄与、ボーナス、相続、結婚した当時寄与した金額)
- 離婚後各自が必要とする財産(年齢、健康、経済的能力、現在所有する財産、新しい配偶者の有無、養育などを総括的に考慮)
- 実際的な双方における公正な金額
実際には杓子定規に判断することはできず、個々のケースごとに判断することになりますので、裁判を進める場合は必ず弁護士に相談されることをお勧めします。
財産分与で不利にならないために
Q. とても億劫ですが、離婚後のことを考えると、なるべく多く財産が欲しいのですが何をしておいたらいいでしょうか?
A. 財産分与の請求をスムーズに進めるためには、まず相手方の資産がどこにどれだけあるのかを把握しておくことが必要になります。 また、財産分与額の決定においては、お互いの貢献度合いが考慮されますので、あなたが実際にどれだけ貢献したかを証明することができる客観的な証拠を集めておくことも重要です。
“財産分与” というと、長く連れ添った夫婦が別れるという大きな決断を下し、それまで積み上げてきた財産を分け合うというイメージを持たれると思います。とはいえ、実際問題として、ほとんどの方は夫婦生活を営んでいく上での財産分与について具体的に考えたことはないと思います。しかしながら、婚姻関係を清算する際において圧倒的に強いのは “準備を行われている方” です。
面倒なことは後回しになりがちなものですが、着々と準備を進められてこられた方と、必要に迫られて応急的に対応される方とでは、結果が大きく異なってくるものですから、離婚を決意されましたら1年間の別居前から段取りを進めておかれることをお勧めします。
オーストラリアの親権Q&A
子供がいる場合の弁護士の必要性
Q. 子供の取り決めについて法的拘束力を持たせるには弁護士を必ず通さないといけないと聞いたのですが、本当ですか?
A. はい、未成年の子供がいる場合、子の養育に関して取り決めを法的拘束力のあるConsent Orderとするには、夫婦それぞれが弁護士からアドバイスを受け、自分と子供の権利と責務を理解した上で、書面で養育に関しての内容を取り決め、それを裁判所に承認してもらわなければなりません。 離婚は親だけの都合で決まってしまう事柄ですから、時と場合によっては、親同士の「売り言葉に買い言葉」で子供の人生が左右されることも考えられます。こうした “限りなく無力に近い” 子供の代理人として、政府や裁判所が介入するのがオーストラリアにおける離婚手続の特徴といえます。
たとえ夫婦の関係は終わっても、子供の両親であることに変わりはありません。 残念なことに、離婚するときの口約束が守られていく保証はなく、実際には殆どのケースで守られていませんので、子供の取り決めについては法的拘束力をもつ形にしておいたほうがいいでしょう、
次の記事では、”オーストラリアの養育費” について解説します。
なお、離婚についてのコラムは全9回(現在、2回目のコラム表示中)の掲載となります。全リストは以下をご参照ください。
1:オーストラリアにおける離婚事情と離婚手続
2:オーストラリアにおける離婚ー何を決めなければならないか
3:オーストラリアの養育費
4:オーストラリアの離婚~インターネット上の情報に惑わされないために~
5:オーストラリアにおける離婚弁護士の選び方
6:オーストラリアで離婚成立後行うべき3つの手続
7:オーストラリアの調停制度(メディエーション)
8:ハーグ条約 - 子供の連れ去りについて
特集記事: 離婚案件のエキスパート、神林弁護士に聞く! (NEW!!)
オーストラリアの月刊誌・日豪プレス(2018年12月号)において、当オフィスの特集記事「離婚案件のエキスパート、神林弁護士に聞く!」が掲載されました。 (2018年11月27日追記)