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オーストラリアにおける離婚事情と離婚手続

目次

はじめに - オーストラリアの弁護士としてお伝えしたいこと

オーストラリアでは離婚は特別なことではありません

離婚に対して抵抗を感じる方が少ないオーストラリアでは、一生涯に産む子供の数よりも結婚する相手の数の方が多いとすらいわれています。 しかし、未だ日本人の方には離婚というとネガティブなイメージがあるのかもしれません。   

「自分が精神的に弱くて、我慢が足りないのではないか…」

「自分の子供に申し訳ない…」

「離婚せずにうまくいく方法はないのか…」

「親から離婚するなと猛反対を受けている…」

「相手が離婚に応じてくれるだろうか…」

「世間からの目も気になる…」

私が弁護士として感じるのは、生真面目な方や責任感が強い方ほど無理して婚姻を継続されてしまう傾向が強いということです。

オーストラリアでは離婚は権利の一つです

一度は好き合って結婚した仲とはいえ、歳月を経てお互いの価値感やライフスタイルがどうしても理解できなかったり、相手の一方的な行動や発言に対して、もはや一緒にいられないと感じてしまう・・・これは、人間ならば仕方がないことですし、むしろ当然のことともいえます。

 実際に結婚した人が離婚する確率は日本でも今や30%(厚生労働省調べ)にも上ります。  これはもっと離婚率が低かった40年前と比べると、4~5倍に増えていることになります。

離婚が増えていることについては一概に喜ぶことはできませんが、昔より自由な生き方ができる時代になってきたことは確かです。  あなたの一生に責任を負えるのは、離婚するなとアドバイスをくれる友人でも、親でも、ましてや身勝手な結婚相手でもありません。 あなたの人生に責任を負えるのは、あなたしかいないのです。

もっと前向きに人生を楽しむため、新しい生活をスタートさせるため、必要であれば「離婚」するというのも、ひとつの選択肢です。  

日本では、相手が離婚に応じない場合には不貞行為など民法が定めている5つの「法定離婚事由」のいずれかを満たさない限り、裁判で離婚は認められません。 しかし、オーストラリアでは「破綻主義」を採用しているため、婚姻関係が破綻しており、もはや修復不可能な状態にあれば、離婚手続を取ることができるのです。  オーストラリアの離婚では離婚の原因は必要とされません。  ですから、我慢に我慢を重ねたり、自分を責めたりする必要はなく、どうしたらもっとよい人生が歩めるのかを考えるのも、あなたに認められている権利のひとつなのです。  

オーストラリアで離婚される方のほとんどが弁護士に相談し、訴訟手続に進まずに解決します。 

離婚を考えたら、問題が起きないよう準備を整え、上手くスマートに解決するのが幸せになる近道です。 

オーストラリアの離婚手続

日本における離婚は9割近くが協議離婚ですので、日本人の方は離婚届に判を押すことで離婚が成立するものと考えられる方も多くいらっしゃいます。  しかし、オーストラリアの離婚手続は離婚届さえ提出すればよいというものではなく、連邦家庭裁判所で婚姻解消の判決を受けなければ離婚が成立しません。 そこで、先ずはオーストラリアの離婚手続における離婚成立要件を簡単にご説明したいと思います。

オーストラリアで離婚する場合の離婚成立要件

オーストラリアの家族法における離婚手続としては、裁判所が「婚姻関係の解消」を命令することにより、社会通念上でいうところの離婚が成立するといった考え方となります。 この「婚姻関係の解消」にあたり、オーストラリアの家族法であるFamily Law Act 1975(連邦法)では以下の要件を満たしている必要があります。

  1. 夫婦生活が完全に破綻しており 
  2. 将来的に夫婦生活が修復する見込みが認められないこと

夫婦が離婚に至る事情は夫婦ごとに異なるものですから、 “夫婦生活が完全に破綻しており” “将来的に夫婦生活が修復する見込みが認められないこと” というのは、一見すると曖昧であるかのように思えます。

しかし、オーストラリアの法律における解釈は至って明確であり、1年以上の期間を通して夫婦が別居していれば “夫婦生活が完全に破綻しており” “将来的に夫婦生活が修復する見込みが認められないこと” という要件を満たすことになります。

すなわち、オーストラリアの法律では、夫婦が1年以上別居していることを証明すれば、裁判所は “夫婦生活が完全に破綻しており”、 “将来的に夫婦生活が修復する見込みが認められない” と判断して、婚姻関係の解消(離婚)を認めることになります。 

オーストラリアの離婚についてよくあるQ&A

家庭内別居は別居になるか

Q. “1年間の別居期間” には家庭内別居期間も含まれているのでしょうか?
A. はい、家庭内別居期間も含まれています。例えば、男女が一つ同じ屋根の下で生活をしていたとしても、その男女が必ずしも婚姻関係にあるとは限らず、シェアメイトや居候のように婚姻関係にない場合もあります。ですから、豪州の家族法では家庭内別居のことを  “separation under the one roof” といい、別居期間としてカウントすることを認めています。  

ただし、相手方から異議申立てが行われた場合には、夫婦間の家庭内別居を立証するにあたって “生活の基盤を夫婦として共有していなかった” という説明と証拠提出を行わなければならず、その事実関係を裁判所に認定してもらう申請が別途必要となります。夫婦としての共同生活が存在していなかった旨を立証する場合、親族、近隣住民、友人、勤務先の方などから証言を得てAffidavit(宣誓供述書)を作成したり、その他にも夫婦が別々に生活をしていた記録を客観的に証明出できる記録や証拠書類などを提出する必要がでてきます。  

これは非常に大切なことですが、実際に家庭内別居をしていたとしても、相手方が家庭内別居を否定する場合には真実を証明することができない場合があります。ですから、余計な時間や労力、費用とリスクを避けるためには、家庭内別居ではなく、完全に別居されることをお勧めします。

別居期間の通算

Q.  “1年間の別居期間” というのは継続した期間である必要がありますか? 
A.  いいえ、必ずしも継続した期間である必要はありません。婚姻とは男女関係のことですから、いったんよりを戻したものの、結局、別居することになるという状況もよく見られます。  このような事情背景もオーストラリアの離婚制度は考慮しており、家庭裁判所のガイドラインにおいては、例外として最高1回(最長3ヶ月)までの期間であれば、よりを戻していた期間を別居期間から除外してカウントすることを認めています。ただし、これはあくまでもガイドラインですから、1年間の別居期間が連続していない場合は、個々の状況について弁護士にご相談されることをお勧めします。   

離婚に必要な前提条件

Q. 結婚して2年未満なのですが、すぐに離婚することができますか?
A. いいえ、すぐに離婚することはできません。婚姻期間が2年未満の夫婦が離婚する場合には離婚に先立って裁判所が認定する離婚カウンセラーからコンサルテーションを受けなければなりません。この離婚カウンセラーは夫婦関係を修復するにあたって必要なアドバイスを行った上で、本当に夫婦が関係を継続していくのが不可能なのか判断を行います。  特段の事情がある場合は裁判所に事情を説明することで、このプロセスを免除してもらうことができます。

なお、この離婚カウンセラーは “オーストラリア政府認定のカウンセラー” ではなく、“オーストラリア連邦裁判所が認定している離婚カウンセラー” でなければなりませんのでご注意ください。   

離婚訴訟の国際裁判管轄について

Q. オーストラリアで生活をしている日本人同士の夫婦ですが、日本で離婚訴訟を提起できますか?
A.  いいえ、原則として日本では離婚訴訟を提起することはできません。

日本の裁判所が裁判を行うことができるかどうかを「国際裁判管轄」といいますが、これについては法律はなく、すべて判例で決まっています。 判例は、①被告(相手方)の住所が日本にある場合、②原告(離婚を求める側)が遺棄された場合ないし被告が行方不明の場合、③被告の住所地国に離婚訴訟を提起するのが困難な場合には、日本の裁判所に訴えを提起できるとしています(最判昭和39年3月25日・最判平成8年6月24日)。夫婦がオーストラリアで生活をしている場合、相手方もオーストラリアに居住していることになりますので、②や③に該当しない限り通常は日本の裁判所に訴えを提起できる場合には該当せず、日本の裁判所に訴えを提起することはできないと考えられます。

※2019年6月追記
2018年4月に人事訴訟法等の一部を改正する法律(平成30年法律第20号)が公布され、2019年4月1日から施行されたことにより、現在夫婦の一方が他方に対し提起した離婚訴訟事件について、次のいずれかに該当するような場合は、日本の裁判所で審理・裁判をすることができるようになりました。
①被告の住所(住所がない場合又は住所が知れない場合には、居所)が日本国内にあるとき(人事訴訟法第3条の2第1号)
②その夫婦が共に日本の国籍を有するとき(同条第5号)
③その夫婦の最後の共通の住所が日本国内にあり、かつ、原告の住所が日本国内にあるとき(同条第6号)
④原告の住所が日本国内にあり、かつ、被告が行方不明であるときなど、日本の裁判所が審理及び裁判をすることが当事者間の衡平を図り、又は適正かつ迅速な審理の実現を確保することとなる特別の事情があるとき(同条第7号)

この法律改正により、日本人同士すなわち夫婦が共に日本国籍を有する場合については、その夫婦がオーストラリアに居住していたとしても、日本で離婚訴訟ができるようになりました。

Q. オーストラリア在住の日本人とオーストラリア人の夫婦ですが、日本で離婚届を出せますか?
A.  基本的にオーストラリアに生活拠点がある日本人とオーストラリア人の夫婦が離婚をする場合はオーストラリアの法律に基づいて離婚手続を行う必要があり、日本で離婚届を出しても日本法上有効な離婚とはならない可能性があります。

日本では、”法の適用に関する通則法”によって、国際離婚問題に適用される法律が決まります。そして、法の適用に関する通則法によると、夫婦の一方が日本に常居所(通常居住している場所)を有している日本人であれば、離婚は日本法に従って行うことができます。
①に当てはまらない場合、②夫婦の本国法(本人の国籍のある国の法律)が同一であるときはその法によります。
②に当てはまらない場合、③夫婦の常居所地法(通常居住している地の法律)が同一であるときはその法によります。
③に当てはまらない場合、④夫婦に最も密接な関係がある地の法によることになります。

つまり、オーストラリアに生活拠点がある日本人とオーストラリア人の夫婦の場合、①夫婦の一方が日本に常居所を有しているわけではありませんし、②本国法もそれぞれオーストラリア法と日本法なので同一とはいえません。しかし、③夫婦の常居所地法であるオーストラリア法は同一なので、オーストラリア法に従って離婚をすべきということになります。 

手続きの流れとして、オーストラリアで離婚が成立した時点で離婚証明書が発行されますので、それを日本の役場に連絡して戸籍情報を変更するという形になります。 詳しくはこちら

Q. 日本人同士の夫婦で日本で籍を入れました。 ここ数年はオーストラリアに住んでいるのですが、オーストラリアで離婚手続きをとることはできないのでしょうか?
A.はい、オーストラリアに生活拠点がある場合はオーストラリアで離婚手続をとることができます。

オーストラリアでは裁判所に離婚を申請して裁判所に離婚を認めてもらう必要があり、手続きを進めていく上でオーストラリアの裁判所がその申請について判断する権限を有するのか、すなわちオーストラリアの裁判所に管轄権があるのかという点が争点となる場合がありますが、この点については、夫婦のうち一方がオーストラリア市民権もしくは永住権保持者、又は過去12ヶ月間オーストラリアに居住している場合には、オーストラリアの裁判所に管轄権が認められています。そのため、日本人同士の夫婦で日本で籍を入れた場合であっても、前述の条件を満たしていればオーストラリアの裁判所に離婚の申請を行うことができます。

離婚の考え方について

これは日本とオーストラリアでは大きく異なります。 そもそも日本では約7割の人が養育費を払っておらず、払っていても子供を育てていける金額ではないことを、政府は見て見ぬふりをしているのが実情でしょう。   実際問題として、誰が子供の将来を考えて真面目に養育費を払っているかといわれると、1割もいないのが実情でしょう。  正直者が馬鹿を見る、日本の年金問題をしても、同じような状況なのが実態です。

その点、オーストラリアでは政府が給料の所得税と同じように回収してきてきくれます。 お給料を貰う時に、色々と税金が引かれていますよね?  オーストラリアの養育費も同じで、それは子供の権利なのですから当然のようにオーストラリア政府が回収してきてくれてきます。  オーストラリアの養育制度は日本とは抜本的に異なり、”養育を貰っていないので子供を会わせたくない” ”子供に会わせてもらってないから養育費を払いたいくない” ”離婚についての経緯や相手の悪口を言う” というのは理解できますが、オーストラリアでは子供にとって利益にならないことは全く認めれていません。  あくまでも、養育費、親権、居住権、面会などは子供の利益を最優先として考えられるということですから、日本の弁護士のアドバイスは全く考慮しないのが賢明です。

 

次の記事では、”オーストラリアにおける離婚ー何を決めなければならないか” について解説します。

 

なお、離婚についてのコラムは全9回(現在、1回目のコラム表示中)の掲載となります。全リストは以下をご参照ください。 

1:オーストラリアにおける離婚事情と離婚手続
2:オーストラリアにおける離婚ー何を決めなければならないか
3:オーストラリアの養育費
4:オーストラリアの離婚~インターネット上の情報に惑わされないために~
5:オーストラリアにおける離婚弁護士の選び方
6:オーストラリアで離婚成立後行うべき3つの手続
7:オーストラリアの調停制度(メディエーション)
8:ハーグ条約 - 子供の連れ去りについて
特集記事:  離婚案件のエキスパート、神林弁護士に聞く!  (NEW!!)

オーストラリアの月刊誌・日豪プレス(2018年12月号)において、当オフィスの特集記事「離婚案件のエキスパート、神林弁護士に聞く!」が掲載されました。 (2018年11月27日追記)

 

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