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日本で遺言書を作成していれば、オーストラリアの遺言書は必要ないのか?

オーストラリアにある財産の相続手続を円滑に進めるために

日本とオーストラリアの双方に不動産や定期預金などの財産を保有されているケースで、どちらの国で遺言書を作成しておく必要があるのかということについてはよくご相談をお受けしますが、結論から申し上げますと、オーストラリアの財産についてはオーストラリアで、日本の財産については日本で有効な遺言書を作成されておくのがベストです。  

遺言の方式の有効性

オーストラリアでは、ハーグ条約の一部であるConvention of 5 October 1961 on the Conflicts of Laws Relating to the Form of Testamentary Dispositions(遺言の方式に関する法律の抵触に関する条約)を批准しており、オーストラリア各州で法改正が行われる中、クィーンズランド州では2015年3月10日に該当する箇所の州法が改正されることになりました。 

この条約を受けて改正されたクィーンズランド州の相続について定めた法律Succession Act 1981の33Tによると、①遺言が成立した地の法、②遺言成立時又は遺言者の死亡時における遺言者の本拠地又は常居所地の法、③遺言書成立時又は遺言者の死亡時において遺言者が国籍を有していた地の法に従って作成された遺言書については、すべて適切に作成されたものとみなされます。  

そのため、日本で日本の法律に従って遺言書を作成した場合は、オーストラリアのクィーンズランド州においてもその遺言書は適切に作成されたものとみなされますので、理論的には遺言書の方式として有効です。 

つまり、日本では公正証書遺言と自筆証書遺言、秘密証書遺言の3種類が法律上有効な遺言書の方式と認められていますが、この方式に従って日本で作成された遺言書は、オーストラリアでも有効な方式に従って作成されたものとされます。  

実務上のデメリット

しかしながら、日本で有効な遺言書を作成しておけば、オーストラリアの遺言書を作成する必要はないと考えるのは少し早計です。というのも、前述の条約に基づく法改正で制定された法律は比較的新しい法律であり、まだ過渡期ということで判例も限られていることから、裁判所での手続は手探り状態に近い形となっているのが実情だからです。 

オーストラリアでは、被相続人が作成した遺言書がある場合、裁判所でその遺言書の有効性の確認と遺言執行者の任命を行うProbateと呼ばれる手続を行う必要があり、原則としてこのProbateを経て発行される証書がないと実務上不動産の名義変更や定期預金の解約等の手続をとることができません。  

そして、日本の遺言書をもってオーストラリア国内でこのProbateを行おうとしても、最終的にそれが本当に日本法に従って有効に作成されたものであるのかどうについて判断するのはオーストラリアの裁判所です。そのため、日本法に従って有効に作成されたものであると裁判官を納得させることができなければ、その遺言書はオーストラリアでは無効な遺言書になってしまいます。オーストラリアは国際機関・The International Institute for the Unification of Private Law [1] が制定する CONVENTION PROVIDING A UNIFORM LAW ON THE FORM OF AN INTERNATIONAL WILL (WASHINGTON, D.C., 1973)に基づいた国際協定に加盟しており、協定国間であれば遺言書に関する統一規格が採用されているものの、日本は非加盟国であるため実際の判断はケースバイケースで行われます。

例えば、オーストラリアには証人の立会がない自筆証書遺言という方式がないため、いきなり裁判所に証拠もなしに「これが日本では有効な遺言です。」といって持っていったとしても、裁判官からは“証人(立会人)もいないのに本当に有効な遺言書なのか?”という疑念を持たれたとしてもおかしくありません。

これは、公正証書遺言の場合でも同様です。公正証書遺言の場合、2人の証人の立会のもと作成されますが、原本が公証役場にて保管されていて謄本しか入手できない点や、裁判所の検認手続が不要である点など、オーストラリアの制度とは異なる点があるため、これらの点について裁判所に説明する必要があります。

昨今は外国法に従って作成された遺言書に基づいて、オーストラリアで相続手続を行いたいという方も増えているかと思いますが、慣れていない裁判所であれば調査や判断に時間がかかるのは当然であり、その判断材料となる申請書類や証拠資料が十分でないと、余計に時間がかかるだけでなく、最終的に遺言書が無効だと判断されてしまうと、そこまでに掛けた時間と労力が無駄になってしまいます。  

結論:オーストラリアと日本でそれぞれの財産を対象にした遺言書を別々に作成しましょう

日本で作成された遺言書をオーストラリアの裁判所に承認してもらうことは不可能ではないかもしれませんが、以上のような実務上のデメリットを考慮すると、日本でオーストラリアの財産も含めた遺言書だけを作成するのではなく、日本の財産については日本の法律に基づいて作成し、オーストラリアの財産についてはオーストラリアの法律に基づいて作成しておくことをおすすめします。 

具体的には、相続対象財産として、「オーストラリア国内(日本国内)に所在する遺言者所有の不動産・動産・預貯金その他一切の財産」という文言をオーストラリアと日本それぞれで作成した遺言書に明記するのが望ましいといえるでしょう。

ただ、日本とオーストラリア双方に財産をお持ちの方の遺言書の作成にあたっては、両国の相続手続をふまえた包括的なアドバイスが必要になりますので、そのようなケースに該当する方は該当国において国際相続に詳しい弁護士にご相談されるのがいいでしょう。

当オフィスには日本の弁護士もおりますので、日本とオーストラリアそれぞれの法律に従った遺言書を一度にまとめて作成することが可能です。日本とオーストラリアの双方に財産をお持ちの方で、日本とオーストラリアそれぞれの遺言書の作成を考えておられる方は、ぜひご相談ください。

被相続人がオーストラリアに財産を遺したまま死亡したのですが、日本の遺言書しかない場合はどうしたらいいですか?

 理論上は、日本の遺言書もオーストラリアにおいて有効な方式に従って作成されているとみなされますので、日本の遺言書をもってオーストラリアの裁判所にProbate手続を申請することは可能です。

この場合、その遺言書が本当に日本法に従って有効に作成されていることについて、裁判所を納得させるだけの申請書類と証拠資料を準備する必要がありますので、裁判所への申請にあたっては、その遺言書が日本法に従った方式で作成されており、法的に有効なものであることを記載した日本の専門家の意見書を添付するのが妥当な場合があります。 また、このような場合、申請する資料に整合性を持たせるため、どのような内容を裁判所に提出したいのかオーストラリアの弁護士と日本の専門家で打ち合わせを行う必要があります。

当オフィスには日本の弁護士がおり、国際相続の案件を多く手がけているため蓄積されたテンプレート(雛形)も数多くありますので、殆どのケースにおいては経験則で対応することが可能です。また、当オフィスでは、日本で作成された遺言書について、オーストラリアの裁判所にProbate手続の申請を行ったケースも取扱いがありますので、もし日本の遺言書しかお持ちでない場合でもまずは当オフィスにご相談いただければと思います。

[1] 通称UNIDROIT(ユニドロワ)

次回は、「オーストラリアの裁判:宣誓供述書(Affidavit・Statutory Declaration)について」解説します。

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