目次
はじめに
オーストラリアでは家の購入時に不動産の名義を夫婦の共有名義にされる方が多くいます。 夫婦の共有名義になっている不動産を売却する際には夫婦の同意のもと売りに出すことになりますが、もし、もう一方の所有者である夫(妻)が応じてくれない場合には、どのような選択肢があるのか、今回のコラムで解説したいと思います。
話し合いか裁判によるStatutory Trusteeの任命
まず、最も合理的な解決策は話し合いで、家を売りたくない所有者が他方所有者から権利を買い取るという方法です。 もし、それが出来ない場合には高等裁判所(夫婦間における紛争である場合はFamily Court)に、共有不動産の売却時に法定管財人となるStatutory Trusteeを任命してもらい売却を進めるという法的措置を取ることができます。 この場合、Statutory Trusteeを任命してもらってから家の売却が行われ、その売却金をStatutory Trusteeが裁判所の判決通りに分配することになります。 分配は折半である必要はなく、購入金額の出資率に応じた金額でしたり、所有権の割合に応じて行われることもあります。 裁判所におけるStatutory Trusteeの任命と、その後の手続きにあたって相応の費用はかかりますが、家を売りたい所有者が他方の所有者が応じてくれるまで何年も見通しが立たない状況に晒されることを考えたら、裁判手続きは合理的な判断といえるかもしれません。
Statutory Trusteeの任命が認められないケース
な共有所有者によるStatutory Trustee任命の申請を裁判所が認めないケースは主に2パターンあります。 まず、共有所有者が全員同意しない場合には売却は行わないという取り決めが事前に存在している場合、もう一つは、その家で共有所有者が年老いた親を介護していたり、子供を育てているなどといった特段の家族の事情がある場合でしたら、裁判所は申請に対する異議申し立てを受け入れる場合があります。
近年における有名な判例*では破産した夫の債権者がstatutory trusteeの申請を行った際に、もう一人の共有所有者である妻が異議申し立てを行ったことがあります。 その際の妻の主張として、家の売却予想額である170万ドルに対して、抵当権を設定している銀行からの住宅ローンの債務が164万ドルあるので家を売りに出す合理性はないというものでしたが、裁判所の判断として、少しでも債権者に返済が行われることが予想されるのであれば売却に合理性はあるとして、妻の異議申し立てを退けています。
さいごに
夫婦が離婚した際に共有名義の家に一方が住み続けるというのは決して珍しいケースではありません。 特にローンの支払いが終わっているような場合、住み続けている方からしてみると、家賃が発生しませんので、そのまま住み続ける方が家を売るよりもメリットが大きかったりします。 他方、その家を出た方からしてみると、早く家を売却して、売却金を分配して欲しいと思うのは普通のことです。 離婚時には見落とされがちですが、そうならないよう、なるべく早い段階で財産分与で家の売却について正式に取り決めておいた方がいいでしょう。
*Rambaldi (Trustee), in the matter of Atkinson (Bankrupt) v Woodward (No 1) [2012] FCA 1087 (13 December 2012)