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オーストラリアの労働法:雇用における人種差別
オーストラリアの政府組織Fair Work Ombudsmanは労働問題における警察・検察組織のようなもので雇用条件の不正に対して非常に厳しい措置を取ることで有名です。 特にここ数年の取り締まりには目を見張るものがありますが、つい先日、オーストラリアでは初めてとなる給料体系における人種差別で立件された事案の判決が下されました。 このような不当な雇用は、2018年3月まで申請が可能であったテンポラリーワーク・Skilledビザ(サブクラス457)では頻繁に見られた雇用条件であり、今後は同様の請求が立て続けに行われていくことが予想されます。
雇用における差別事例についての判例
オーストラリアのFair Work Act 2009の351条(均等待遇)では、人種、肌の色、性別、年齢、信条又は社会的身分などを理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、雇用主は差別的な取扱いをしてはならないことが規定されています。 前述の判決が下されたケースでは、ホテルを所有するオーナーが外国人夫婦を国外からテンポラリーワーク(Skilled)ビザ(サブクラス457)で呼び寄せて雇用した際の労働条件が明らかに他のローカルスタッフとは異なっていたことが問題視されました。 経営者側はローカルスタッフの雇用に際しては最低雇用条件と最低賃金を守っていたことからFair Work Act 2009が定める条件を十分に理解しており、その一方でビザをスポンサーした従業員の雇用については最低雇用条件と最低賃金を守らずに長時間労働を強いていたことから、裁判所は雇用主が外国人労働者を雇用するにあたって意図的な労働条件の差別を行っていたものと判断し、本来支払われるべきだった給料と実際に支払われた給料の差額分である計29,325ドルの支払いはもちろんのこと、雇用主である会社と実際に不正を働いたDirector(取締役)の男性に$211,104 の罰金を科しました。
違法な雇用条件での勤務
オーストラリア政府はこのような差別雇用がオーストラリア国内で頻発していることを強く問題視しており、2017年の労働法における罰則規定の改正以降は取り締まりを強化しています。 特に外国人労働者でビザをスポンサーして貰っている方は、ビザがキャンセルになることを恐れて雇用主に対して強く出ることができないことが多く、結果として、雇用主による不正が野放しとなっているケースは少なくありません。 しかし、オーストラリアの労働法では雇用主が適正な給料を支払わなかった場合、雇用主が立場の弱い外国人労働者から給料を(搾取という表現ではなくより悪質な)“盗んだ”とみなす傾向にあり、労働者を保護することを目的としていますので、もし法律で定められている最低賃金・労働条件以下で働かれている方がいらっしゃったら、今後同じような被害が発生しないよう、勇気を振り絞り、声を上げていただければと思います。
また、永住権取得者については、スポンサーをしてもらった企業の不正を暴くことで永住権自体の取り消しなどが行われることはありませんし、現在その企業にスポンサーをしてもらっている従業員についても労働法に基づく正当な権利を行使することでビザ上の不利益を被ることがないよう法律上保護されています。 スポンサーをしてもらったことで会社に恩義を感じられるのは普通のことかもしれませんが、もしスポンサー会社が不当な雇用条件でスポンサーをしているのであれば、それを野放しにしておくことは更なる不正や被害者を増やすことに繋がりかねませんので、正当な権利については行使されることをおすすめします。
未払賃金の請求権に関する時効
オーストラリア政府が定める法律・Fair Work Act.の規定では雇用に関する請求に関しては6年の時効が定められています。 これには正規の金額との差額分を含む給料の未払いだけでなく、未払いの有給休暇や残業手当、本来は支払われるべき週末や祝祭日レートや残業代の支払いも含まれます。 そのため、もし勤務先が変わってしまったとしても、6年の時効で請求権が消滅するまでは未払賃金等を請求することが可能です。
もし現在未払いになっている賃金があるという方は、時効で請求権が消滅してしまう前にご相談されることをおすすめします。