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弁護士が教える オーストラリアでの日本人によるタバコ密輸事件について

オーストラリアでは、近時、日本人によるタバコ密輸事件が相次いで取り沙汰されていますので、弁護士の視点から少し掘り下げて解説したいと思います。

タバコの密輸事件?  という方の為に、NHKのニュース記事を以下に抜粋します。

“オーストラリアでは、たばこへの増税で代表的な銘柄が1箱、日本円でおよそ5000円となっていますが、9月にオーストラリアの空港で、日本人の男4人が大量のたばこを密輸しようとしたとして、摘発されていたことがわかりました。 9月7日にオーストラリア東部ブリスベンの空港で日本人の男4人が、14万本余りのたばこを申告せずに持ち込もうとしたとして、国境警備当局に摘発されていたことが関係者への取材でわかりました。 4人は、観光客として入国しようとし、スーツケースの中に大量のたばこを隠していたということです。”

NHK News – 参照URL: https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240926/k10014593281000.html

また、オーストラリアの邦人向け情報誌・日豪プレスでは、日本人渡航者に向けて以下のようなニュースと注意喚起が行われています。

“怪しい闇バイトに騙されるな! 日本人のタバコ密輸、豪州で相次ぎ摘発”

3都市で合計12人摘発、強制送還“

“オーストラリアではこのところ、日本人による大量のタバコ持ち込みが摘発されるケースが相次いでいる。東部シドニー空港では7月5日、合計33万本のタバコを不正に持ち込もうとした日本人9人が入国を拒否された。西部パース空港では7月30日、3万4,000本以上のタバコを申告せずに持ち込もうとした日本人1人が同様に強制送還された。 

いずれのケースでも強制送還の航空券代は本人負担。ABFによると、密輸が発覚した場合、大量のタバコが没収されるだけではなく、ビザが取り消されると最長3年間、オーストラリアに再入国できなくなる。“

海外からオーストラリアにタバコを持ち込む際の条件について

オーストラリア入国時に未開封(25本まで)のタバコ一箱、開封済みのタバコ一箱を超えて所持している場合には申告が必要となり、関税を支払わなければなりません。 関税は1本につき、およそ92セント~1ドルとなっています。

Australian Border Force(公式)- 参照URL: 
https://www.abf.gov.au/importing-exporting-and-manufacturing/prohibited-goods/categories/tobacco#:~:text=Travellers%20arriving%20in%20Australia,-As%20a%20traveller&text=You%20do%20not%20need%20a,one%20open%20packet%20of%20cigarettes

ペナルティについて

タバコ密輸のペナルティについては、いずれのニュースサイトでは深く取り下げて記載していませんが、オーストラリアの連邦法である Customs Act 1901では高額な罰金が科せられており、2018年11月28日に7200本(360箱)を不正に持ち込もうとしたケースでは39,152.73ドルの支払いが裁判所によって命じられており、その内訳は以下の通りです。

タバコの密輸に対する罰金 - 14,000ドル

タバコの持ち込みに際して支払わなければならない税金を脱税した罰金 - 15,000ドル

入国管理局に対して、意図的な虚偽の申告をした罰金   - 7,500ドル

検察側による裁判に掛かった費用 - 2,652.73ドル 

オーストラリア移民国境警備省(公式) 参照URL: https://www.abf.gov.au/newsroom-subsite/Pages/cigarette-smuggler-5-02-2020.aspx

ビザの取り消し

オーストラリアでは、ビザの発給条件が守られていない場合はビザの取り消しが行われることになり、 これは状況にも拠りますが、自主的な帰国を促されるか、もしくは強制送還といった措置が取られることになります。 観光ビザの場合は観光が主目的であり、ワーキングホリデーの場合は滞在中の資金を補う為の一時的な就労はできるものの、オーストラリア滞在の主目的が休暇を過ごすものであるという前提条件が認められてビザが発給される訳ですから、それらの条件が守られないはビザの取り消しが行われて一定期間内に出国を促されることになります。 他方、タバコの密輸事件のような場合は空港で入国自体が認められずに強制送還といった措置が取られます。 前述の日豪プレスの記事では、“最長3年間、オーストラリアに再入国できなくなる”といった記載がされていますが、実際には違うように思われます。 私は移民局の公式見解をできる立場に居ないのですが、タバコの密輸事件のようなケースでは、入国時に虚偽の申告をした上で、脱税を意図した営利目的での持ち込みという判断が取られますので、高額な罰金が科せられる他、ビザの取り消しに加えて、今後のオーストアリア入国に対する規制といった措置が取られ、3年を超えてもビザ自体が降りないことが予想されます。 

強制送還

そもそも、タバコの密輸なんて見つからないんじゃない? と思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。 簡単に見つかります。 

これは飛行機に乗る際に(小さいので見つかりっこないと)ライターをスーツケースに入れて預けると、現在のシステムおいては、ほぼ見つかって空港で呼び出されるのと同じロジックです。 簡単に言えば、AIの進歩によって、わざわざスーツケースを開けて目視したりしなくても、ライターの持ち込みが露見するようにタバコのような棒状のものが多く混入しているような場合はAIの自動判定によって入国時に簡単に露見するということです。 NHKの取材に対して “オーストラリアの国境警備当局のマッカーン担当官は、「違法なたばこは組織犯罪を助長し、収益源にもなっている」として、取締を強化する考を示しめしました。” とあるよう、日本人による密輸事件が頻発したことにより、現在、日本からの渡航はオーストラリア入国時における厳しい検査対象となっています。

20年以上前であれば、預け荷物にライターが入っていても露見しませんでしたが、今では簡単に見つかって空港で呼び出されるように、オーストラリアでは入国の際のレントゲン検査におけるAI検査でタバコの不正輸入も簡単に見つけることができます。 これまでは定期的な検査しかしていなかったのでタバコの密輸が成功するケースもあったようですが、残念なことに、日本からオーストラリアに対する密輸事件が相次いだことも相まって、現在、日本からの渡航に関しては入国時の検査は頻繁に行われているようです。 

すなわち、日本からのタバコの密輸は簡単にバレるということです。

オーストラリア移民国境警備省(公式) 参照URL: https://www.abf.gov.au/newsroom-subsite/Pages/Ciggie-smuggling-scheme-stymied-by-ABF-officers.aspx

オーストラリアへの密輸事件が露呈した場合、高額な罰金が科せられるだけでなく、ビザの取り消しに加えて強制送還、そして、その記録は半永久的に残ることとなります。 現在は多くの国が入国時に “犯罪歴はありますか?” “他の国でビザがキャンセルされたことはありますか?” “他の国で強制送還されたことはありますか?” 等といった質問事項に記入が義務付けられていますので、一生涯、あなたには海外渡航の規制が科せられることになります。 そして、あなたの密輸事件はオーストラリアだけでなく、オーストラリアと国際協定を結んでいる国々で共有されることになり、それは一生涯、消えることはなく、強制送還だけで済むという問題ではないということです。  

闇バイト

昨今のトレンドなのか、日本では闇バイトなる犯罪が後を絶ちません。 これは、テレグラム等の身元を特定されにくいツールが普及したことにより、完全犯罪(実際には身元を特定することはできます)を目論んだ素人に毛が生えたような方達が市場に多く参入したことが理由と考えられます。 

ただ、タバコの使用は日豪両国ともに合法ではあるものの、密輸は犯罪です。 

もし、あなたが安易な気持ちで闇バイトに申し込もうとしているのであれば、このような犯罪に加担するのは止めた方が良いでしょう。

そのような犯罪の片棒を担がされた場合、相手は身元不詳の誰だか分らない人物であることを良いことに、トカゲの尻尾きりのよう、あなたは簡単に切り捨てられます。 そして、仮に密輸が成功したとしても、その犯罪を持ちかけた相手は身元が分からない誰だか分らない訳ですから、結果として、あなたが持ち込んだ荷物を奪われ、あなたに報酬は支払わることはないようです。 実際には、あなたの信頼を得るために(良くて)最初にタバコの購入費用の一部が支払われるだけではないでしょうか。 多くの場合、あなたの犯罪を暴露すると脅され、あなたには報酬は支払われることなく、あなたは泣き寝入りすることになりますので、経済的な理由であれば、このような犯罪に加担するメリットは全くありません。 弁護士の視点からは、犯罪を助長することは出来ませんが、少なくとも、このような犯罪に加担するのであれば、相手の身分証明、ビデオ通話の記録、事前の支払いを求めておく必要があるでしょう。 それでも、それは犯罪にあることに間違いありませんので、関わらないのが良いでしょう(絶対にやめてください)。

闇バイトの嘘と真実

これは、私個人の私見となりますが、オーストラリアでは正規に流通しているタバコが一箱あたり約50ドル(日本円で約5000円)というのは事実かもしれませんが、闇タバコは、その半額以下の一箱15ドル前後(日本円で1400~1500円)で流通しており、その多くはタバコの市場価格が安い国(一箱100円以下の国)や韓国のように日本のタバコの半分以下のサイズのものがコンテナで何百万~何千箱単位で密輸入された組織的な犯罪によるものです。 従って、それらを販売している(すなわち、一番摘発リスクのある)店舗では一箱5ドル(日本円で500円)ぐらいの価格で仕入れているのではないでしょうか。 いくら日本のタバコが人気(そもそも、それ自体が意味不明ですが、あなたを騙すためについた嘘だと考えると納得できます)とはいっても、実際にはそんな高い価格で売れることはないという事です。  ですから、闇バイトは、最初からあなたを騙してタバコを奪うことを目的としていると考えた方がいいでしょう。  

結論として、あなたが安易な気持ちで闇バイトに申し込もうとしているのであれば、このような犯罪に加担するのは止めた方が良いでしょう。 もし、あなたがこのような闇バイトを持ちかけた場合、是非とも、このような被害被害が増えないよう、日本とオーストラリアの警察に事の顛末をレポートしていただければと思います。 当オフィスでは、このような犯罪行為について、オーストラリア政府にレポートを行っておりますので、もしよろしければ、情報提供いただければと思います。

2024年10月14日

オーストラリア連邦弁護士・神林佳吾

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